ダークタワー - レビュー

真に優れた原作の、実に平凡な実写化

スティーヴン・キングのライフワークを実写化「ダークタワー」レビュー
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スティーヴン・キング原作の映画「ダークタワー」を観ている間、ガンスリンガーの教義にある「我は我が銃で殺さぬ。銃で殺す者、父親の顔を忘却せり。我は心で殺す」という一節を思い起こさずにはいられなかった。本作の素晴らしい主演2人はこのセリフを何度か口にするが、映画自体はこの教義の意味を真に理解していないようだ。「ダークタワー」の実写映画には原作の微妙なニュアンスや重厚さが欠如しており、根幹となる魂が感じられない。

馬鹿馬鹿しい印象を与えずにキングの「ダークタワー」シリーズを説明することは難しい。ホラーであり、マカロニ・ウェスタンであり、アーサー王伝説でもある本作は、様々なジャンルの要素を取り込むことで、素晴らしくユニークなシリーズに仕上がっている。それとは対照的に、映画の「ダークタワー」は上辺だけの実写化であり、ひどい駄作とまではいかないものの、強い印象を残すことに失敗している。

シリーズの中からいくつかの要素を混ぜ合わせることで新しい物語を描こうとした本作は、「ダークタワー」というサーガの主となる要素はちゃんと押さえている――全ての世界を支えるタワーを巡る戦い、復讐に囚われたガンスリンガーのローランド(イドリス・エルバ)、暗黒の魔道士ウォルター(マシュー・マコノヒー)、そして超能力を持つ、ニューヨーク出身の少年ジェイク。しかし、それらの要素を描きつつも、映画「ダークタワー」は原作を名作たらしめた、さり気ない物語運び、説得力のある伝承、感動を捉えることができていない。

人間味のある魅力的な登場人物たちは、彼らの行動を説明する動機が省略されているため、ひどく一面的なキャラクターに成り下がっている。とはいえ、役者の演技が悪いという意味ではない――実際、���作のキャスティングは素晴らしい。エルバのぶっきらぼうな立ち振舞いと二丁拳銃の見事な扱いは、クリント・イーストウッドの名無しの男を想起させる。

また、マコノヒーは悪魔的な魔道士を演じるのを心から楽しんでいるようで、彼からは全ての生命を終わらせてやろうという男の気迫が感じられる。しかし、本作の脚本には中身がなく、現代で最も優れた俳優の2人であるマコノヒーとエルバから新しい演技を引き出すことができていない。

「ダークタワー」の実際のストーリーもかなり散らかっている。95分という短い時間しかないため、世界の背景や登場人物についての説明や掘り下げがないまま、物語は驚くべきスピードで進んでいく。たまにペースが落ち、静かな会話シーンに入ったかと思いきや、キャラクターを掘り下げるのではなく、これから何が起きるかを長々と説明するシーンが続く。

キャラクターの動機を描かなかったことは、こういったシーンでも問題になっている。スクリーンで起きている出来事を理解することは比較的簡単だが、私はそれぞれのキャラクターの行動原理がわからず、しょっちゅう困惑してしまった。確かにローランドはウォルターへの復讐だけを目的に生きる獣のような男だ。しかし、映画版はウォルターに高貴な過去があったことや、悲劇的な出来事を経て没落したという側面に触れていない。これらの要素は、ローランドというキャラクターを理解する上で非常に重要なのにもかかわらず。また、ウォルターは超能力をもつジェイクや他の子供たちを使って、タワーを破壊し、全ての生命を終わらせようとする。――でもなぜ? 映画を観ているだけではその理由はわからない。彼が邪悪だからだろうか? 当然、シリーズのファンである私はその理由を知った上で劇場に足を運んでいる。しかし、シリーズものでもない1本の映画で、物語の中心となる戦いの理由を知るのに5000ページの読書をあらかじめしておかないといけないなんて馬鹿げている。

この問題はどうでもよい脇役たちの存在によってさらに悪くなっている。主要キャスト以外のキャラクターは、辛辣な継父、オタクっぽいコンピューターの達人など、つまらないステレオタイプが具現化したような人物ばかり。我々はこういったキャラクターの表面的な部分しか知ることができず、彼らが死んだり、犠牲になったり、裏切られたりしたとしても何も感じない。「ダークタワー」の登場人物は愛する人の死を次のシーンまでに忘れることができるようだ。ならば、なぜ我々が彼らの死に心を動かされなければならないのか。

スクリーンで描かれる出来事にはあまり深みがないかもしれないが、少なくとも本作の見た目は美しい。監督のニコライ・アーセルはジェイクが暮らすニューヨークの喧騒と、ローランドとウォルターが暮らすミッドワールドの荒涼とした世界を上手く対比させている。また、人間の皮を体に合わないスーツのように身にまとう、ウォルターの手下たちのビジュアルも、実に気味が悪く効果的だ。そして、謎めいたタワーそのものも、ユニバースの中心に相応しい堂々たる風格を見せている。

しかし、この映画に関しては全てがそうであるように、優れたビジュアルも、それについてじっくりと考える時間が設けられないまま、次のシーンへと移ってしまう。私はミッドワールドやウォルターの手下たちについてもっと知りたかったし、タワーがこの世界にとって何を意味するのか、しっかりと掘り下げてほしかった。

総評

「ダークタワー」は真に優れた原作の、実に平凡な実写化だ。主演の俳優陣は与えられた素材を元に、できるかぎりの演技をしているが、彼らの努力も、キャラクターの掘り下げや動機の説明が足りない脚本の欠点を補うことはできていない。本作は一見壮大なファンタジーだが、表面をちょっとめくってみると大した中身がないことが露呈する。全宇宙の命運を巡る物語にもかかわらず、この世界に感情移入することは難しい。

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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スティーヴン・キングのライフワークを実写化「ダークタワー」レビュー

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「ダークタワー」は真に優れた原作の、実に平凡な実写化だ。
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